川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                    京終駅



    京の果て、つまり平城京の果てるところ「きょうばて」。
    字面も言葉の響きも大好きだ。それに心に残る人の最寄り駅でもあった。
   
    京終駅は万葉まほろば線の駅で、次が終点の奈良駅である。
    1898年に京終 − 桜井間が開通し、翌1899年には奈良 − 桜井間の運行となった。
    開業以来の古い木造平屋建ての駅舎は、どこか郷愁を覚えさせ、素朴で暖かだった。

    そんな京終駅が、先日テレビで紹介された。
    だが私の知っている駅舎ではなく、ずいぶん新しい。いつ、立て替えられたのだろう? 
    薄暗かった待合は明るくなり、真ん中にピアノが置いてある。
    誰でも勝手に弾けるようで、テレビの中で女性が真剣に演奏をしていた。
    そして、なんとカフェも併設されている。

    リニューアルされた京終駅はお洒落で、私の大好きな京終駅とは違う気がした。

    田舎の校舎のような肌合いの駅舎……
    誰が植えたのか、駅舎の前のプランターの花……
    時間が止まったような無人駅……
    あの駅舎は、京終という名前に似合っていたのに。
    寂しい。

    たまらなくなって京終駅まで行ってみた。
    令和元年に復元工事が完了したそうである。
    赤いポストの位置は違っているけれど、屋根の形も大きさも同じに見えた。

    彼女との思い出が次から次へと湧き上がり、瞼が熱くなった。
    彼女が逝ってもう8年になる。



                             雪の日にも京終を
               2020.3.30