川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                       仏師がいた里




     丹波地方は奥深い。
     そして特有の文化を有している。

     目的は丹波篠山の「丹波杜氏酒造記念館」での聞酒であった。
     129点もの日本酒がずらりと並んでいる。
     部屋に足を入れると、もうそこは、お酒飲みにとっては夢の世界。
     いやいや、今日は飲んではいけないのだ。
     口に含んで香りと味を味わって、吐き捨てるのである。
     ノンベエ達からは、なんと勿体ないと抗議を受けそうな集りだ。
     だが、私の喉はそんな約束事を無視して、いくどかゴクリと音をたてた。
     微かな酔いに外は春雨、なんとも贅沢なひとときであった。

     黒豆づくしの昼食をとりながら、午後のコースを考える。
     氷上町まで足を伸ばし、カタクリと仏像を見ようということになった。


     達身寺は仏像好きの私には衝撃的だった。
     朽ちた仏像群だった。
     手足はもちろん、顔も体も定かでなく、くずれた人間をみるようだ。
     明智光秀の丹波攻めの際、仏像を守ろうと谷へ降ろしたものが、長年置き去りにされていたの
     が原因だという。
     それにしても圧巻だ。お腹がぷくりと膨らんだ像が多い。
     「達身寺様式」と呼ばれているそうだ。

     この辺りには仏師の集団があったのではないかと言われている。
     「丹波仏師」である。
     仏師達はこの山里で静かにノミをふるって暮していた。
     その集団がいつ、どのような理由で、消えさったのかは謎である。
     想像をかきたてる隠れ里である。

     堂内の仏像に供花するように、黄水仙が寺の周囲といわず、背後の小高い斜面といわず、
     一面の花盛りである。
     仏像との対比に私はしばし現実を忘れた。
     達身寺が丹波の正倉院と呼ばれるのも納得がいく。さもありなん、である。
     
     聞酒という当初の目的が、飛んでしまった。
     


     カタクリの群落はまさに春の妖精たちの楽園だ。
     気温が低すぎて、花弁が反り返っていないのは残念だが、それでも可憐さにかわりはない。
     藪椿が真紅の花を枝いっぱいにつけている。
     せせらぎにはニリンソウの白が清らかに美しい。

     丹波篠山城、玉水ゆり園、ユニトピアささやま……
     それにしても丹波地方は懐が深く趣深い。
     近ければ回数券を買って、日参したいものである。
     

       

                                                
                                                           23、4、20