川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                 高田の寺内町



    寺内町を歩くのが好きだ。
    堀や土塁で囲まれた碁盤の目の町づくり、歴史を感じさせる重厚な建物、漆喰の壁、
    格子……。
    鄙びた確かな空間と、ゆるやかな時間が流れている。
    きらびやかな色彩はどこにもない。
    色彩と言えば寺の築地塀ごしに見える大樹か、寺内の周囲を覆う竹林の濃い緑のみ。

    観光地ではない寺内町を訪ねる人は少ない。(富田林寺内町は別だが)
    出会う人は住民のみである。喧噪とは無縁の町を、私はゆっくりと歩く。
    当時の匂いがそのまま漂っていそうな路地も、道端の、風雨にさらされて朽ちかけた道標も、
    愛おしくて仕方がない。

    地味な寺内町を私は地味に歩き続けている。


    大和高田市の「高田寺内町」は、専立寺を中心に形成されている。
    江戸期の古い建物が残っているのはもちろんだが、本町通りには大正・昭和初期のモダンな
    建築物が健在で、郷愁を感じさせる。
    もちろん、今もそこで業務や生活が営まれている。

    ノスタルジックな通りを曲がり、横大路に入ると、
    長谷寺と同木で彫られた同型の観音様がおわす「長谷本寺」が、周囲の街並みに
    溶け込んでいる。
    710年の創建だ。長谷寺の観音様より古いので「長谷本寺」と称されるとか。
    小ぶりな本堂の前に仏足が置かれている。
    本尊の11面観音菩薩像の足だという。直接、手に触れて観音様と縁を結べるようにとの
    心配りである。まさに、隠れた古刹である。
    
    辻を曲がれば突然に現れる、寺院や造り酒屋や米穀商、そして昔むかしの看板……。
    寺内町は素朴にして奥深く、確かな手応えを感じさせる。

    一方通行の狭い国道を少し歩くと、千本桜で有名な高田の堤にでる。
    桜の蕾はまだ固いだろうか。
    ここから眺める二上山も格別である。
    
    

    
                    2019.3.21