川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                         桜ざんまい




     従姉妹と2人でお花見に行った。
     海津大崎、奥琵琶湖、長浜、彦根の夜桜と、なんとも欲張りなバスツワーである。

     海津大崎はまだ3、4分咲きという所だった。
     湖面を吹く風は少し冷たいが、私たちは湖岸沿いの薄桃色を眺めながらお弁当を食べた。
     お互いまだ疲れもなく、テンションは高い。
     何と言うこともない猫にも、「わあ、可愛らしい猫やね」。
     観光地に来ると、どうも女たちは猫や犬を見てさえ、珍しいものを見るかのように声をあげる。
     なぜだろう? 

     45分の休憩のあと、バスは奥琵琶湖へと。
     乗り物大好きな私は、飽きることなく窓からの風景を眺め続ける。
     従姉妹は、うとうとと気持ちよさげだ。時おり、
     「めえちゃんは、なんで眠たなれへんの?」と、不思議がりつつ、またうとうととする。
     羨ましいほど、気持ちよさそうだ。

     次の長浜、豊公園は、桜が満開だった。
     少々疲れた私はコーヒーを飲みたくなり、ツアーの集団から離れ、ホテルのティールームに入った。
     時間は30分しかない。
     2人は時間を気にしつつ、大急ぎでコーヒーを飲んだ。
     味わうどころではないが、それでも少し元気が戻った。

     彦根城の桜は豪華絢爛だった。まさしくこれが桜。満開のお手本。
     桃色が夕陽に照らされ、金色に輝いている。石垣と桜、日本の春である。
     突然、濠端で、従姉妹がお腹がすいたと言い出した。
     「めえちゃんは?」と聞くので、食べた事のないものなら食べてもいいと、答えた。

     城を後にし、「もんじゃやき」の店に入った。
     まず焼き方が分らない。出汁が鉄板上にだらしなく、どこまでも広がってゆく。
     「なんや、汚いな」
     店の人に教わりながら、なんとか焼きあがった。
     だが、食べ方が分らない。また、店の人に聞く。
     小さなままごとのようなテコの裏に、焼けたものをはりつけ、鉄板に押し付けさらに焼くのだそうだ。
     なんともイライラとする、難しい食べ物である。

     急に2人同時に、「今何時?、集合時間は何時やった?」
     「あと20分しかないよ、こんな小さなテコではまにあわへんよ。大きいので食べよ」
     チマチマと食べるもんじゃ焼きは、女子会にこそ相応しい。それも若い。

     もんじゃ焼屋さんから、バスの駐車場までは遠い。
     私たちは、あと何分?をくり返しながら、駐車場を目指した。
     なんとか間に合った。
     車窓から振り返ると、ライトアップされた桜が窓一杯に広がった。
     今年1番の桜だった。
     なのに、この桜を心ゆくまで愛でずして、もんじゃ焼きを食べていた私と従姉妹。

     どうやら、もんじゃ焼きは、時間がたっぷりあるときに食べるもののようだ。