川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                      西御坊駅


   
   このところ和歌山づいている。
   というより南の方角から呼ばれているのかもしれない。吉方なのだろうか。
   いちど高島易断で調べてみよう。

   で、今回は以前から気になっていた御坊鉄道、正しくは紀州鉄道に乗ってきた。
   ある雑誌でみた「西御坊駅」の鄙びかげんに、いたく魅了されたのだ。
   紀州鉄道というと、なんだか紀伊半島をイメージするので、私は勝手に御坊鉄道と呼んでいる。

   御坊鉄道は日本一のミニ私鉄である。
   JRの御坊駅と日高別院のある西御坊までを結んでいる。その距離はなんと2、7q。
   それでも駅は5駅もある。
   JR御坊駅・学門駅・紀伊御坊駅・市役所前・そして終着駅の西御坊駅。
   この間を20キロの速度で、のんびりと走る。
   JR御坊駅と紀伊田辺駅以外は、無人駅だ。
   だが、受験シーズンともなれば、「学門駅」は急に賑やかになるらしい。

   1輛仕立ての列車は「御坊駅0番のりば」から発車する。
   「0番乗り場?」と、珍しがっていたら、かつては全国で100か所もあったそうだ。
   しかし次第に減少し、現在ではそれでも40か所の0番のりばがあるという。
   
   今回の私の目的は「西御坊駅」だ。
   
   大正時代にタイムスリップしたような駅舎だった。
   大きな一枚板に墨書きで「西御坊驛」の看板が掛かっている。
   狭いホームの先には車止めの標識が。

   線路がなければ、その存在を見落としそうな古色蒼然とした小さな駅だ。
   西御坊駅は、本願寺の日高別院や寺内町への最寄り駅である。
   さぞや昔は参拝者で賑わっただろうに……、乗客は私のほかに誰もいなかった。

   心いくまで、駅のベンチに腰をかけていた。
   列車に宮子姫が描かれている。髪長姫の話を思い出しながら聖武天皇や道成寺に思いを馳せた。
   「西御坊駅」は私の期待を裏切らなかった。



                                   2018・5・18