川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
ホーム  エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 
                 



                  日本一の地蔵さん



   落ち込みが酷くなると、仏像が見たくなる。
   死後の世界の存在を信じている私にとって、仏様は心のより所、つよーい味方である。
   今日は優しい面差しの地蔵さんを見たい気分だ。
   「そうだ! 日本1大きい泉橋寺のお地蔵さんにしよう」
   さぞかしご利益も大きいことだろうと、根性卑しく車に乗り込んだ。

   奈良を過ぎ京都に入ってしばらくすると、木津川がゆったりと流れている。
   河川敷には茶畑が広がり、艶やかな濃い緑色が延々と続いている。
   浜茶と言うそうだ。水辺の砂地は、甜茶(抹茶の原料)の栽培に適しているそうだ。
   光を調節するために黒い覆いがかかっているが、水辺の茶畑ってなんだか素敵だな。
   
   なおも車を走らせていると、突然、土手の下に地蔵さんの上半身が現れた。
   それは全く、突然の出現という感じだった。
   私は「わあっ!」と大声を出し、
   夫は「びっくりさせんといて、ハンドル切り損ねるやん」と、それでもちらりと横目を使った。

   泉橋寺の脇に日本一の地蔵菩薩は鎮座している。鎌倉時代の建立で高さ4、58mの露仏だ。
   この地蔵の縁起が面白い。
   木津川を見守るために、日本一の高さにしてほしいと要望を出したり、立っているばかりでは
   疲れるので座らせてほしいと、なまくらな事を言ったり、また、木津川の流れがよく見える
   ように、お堂はいらないと断ったりと、なんとも人間的な石の地蔵菩薩坐像である。

   地蔵は地獄をも含むすべての世界で衆生を救う菩薩である。
   それにお地蔵さんは閻魔大王の化身だとか、地獄でも顔がきくというものだ。
   私は地蔵さんに、片手では足りないくらいの願い事をした。
   この大きさだ、どんなに多くの頼みでも聞き入れて下さるだろう。
   
   ふっと、どこからか爽やかな香りが聞こえたような。

   泉橋寺の西側に古い家並みが軒を連ねていた。上狛茶問屋街だ。
   なんだか懐かしい風情だ。 
   福寿園を始め40件もの茶問屋が商いをしている。最盛期には120件もの店があったそうだ。
   間口の広い店先や、路地の奥から、お茶の香りが流れてきたのだろうか。
   どこかでお茶を飲みたいなあと、辺りを探してみたが、残念ながら見つからない。
   こうなったらどこまでも車を走らせて、茶処を探さねば!


   
   
   
                   2019.1.15