川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
ホーム  エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 





                   壬生義士伝に憧れて



   浅田次郎の「壬生義士伝」が大好きだ。
   主人公・吉村貫一郎の生れ在所である、岩手山を望む雫石にどうしても行ってみたかった。
   貧しさゆえに盛岡藩を脱藩し、新選組の隊士となる貫一郎。
   雫石という美しい響きと字面にも心ひかれた。

   早朝の雫石は雲海につつまれ幻想的だった。
   南部片富士と称される伸びやかな岩手山は、頂上にうっすらと雪をかぶっている。
   映画のシーンを蘇らせながら、私は山に魅入っていた。

   東北は3度目である。
   だが今回は団体のツアーで、新潟・山形・秋田・山形・宮城・福島と強行軍だ。
   最後まで脱落せずについていけるだろうか……。

   この日の行程は、雫石から平泉・中尊寺と松島、そして五色沼だ。
   金色堂の素晴らしさは言うまでもないが、弁財天堂や弁慶堂、地蔵堂などの諸堂が老杉と共に
   歴史を感じさせる。
   本堂には延暦寺から分灯された「不滅の法灯」が、釈迦如来坐像の両脇に灯っている。
   はるばる東北の地で延暦寺の灯が灯り続けていることに、私は深い感慨を覚えた。
   そういえば、山形県の立石寺にも分灯されている。
   急に東北が近いものに感じられた。

   今回の旅に私は母の写真を連れて行った。
   「お母ちゃん、また来れたね。わんこそばを食べた坂の下のお店、まだあったね」
   私は母と喋りながら、中尊寺を懐かしく見て回った。


   その夜、ブレスレット型の数珠が無くなっているのに気づいた。
   糸が切れたのだろう。手首が素っ気なく寒々しい。
   願わくば、中尊寺のどこかに数珠の球が散らばっていてほしい。
   
   

   
                               2018.11,21