川上恵(沙羅けい)の芸術村
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              めでたい山門



    仏像や石仏に興味があって、地味に1人で楽しんでいる。
    今回は宝篋印塔の写真が撮りたくて、阪南市下出の大願寺を訪ねた。

    境内の奥の1画が墓地になっている。
    新しい石碑は少なくて、苔むした石碑や欠けた石碑、いまにも倒れそうに傾いたのもある。
    石材は泉砂岩らしく、もろく、欠け方にも無常を感じる。
    歴史があると言えば、聞こえがいいのだが、ふるーい墓地である。
    代々の住職の墓碑が多いせいで、形も大仰なものが多いようだ。

    目指す宝篋印塔はうず高く積み上げられた無縁仏の傍にあった。
    頭の落ちた仏や、角の欠けた梵字の石碑、苔やカビの浮いた今や石に化した碑……。
    それらがまるでピラミッドのように積まれている。

    宝篋印塔には背中に笈を背負った聖が彫られている。
    前かがみの聖からは、痛いほどの一途さが伝わってくる。
    仏塔の先は無残に崩れているのに、不思議に顔は鮮明だ。

    「あかんあかん。目が合ったら懐かれそうや」

    流石に長居をする勇気はなく、そそくさと本堂まで戻った。
    明るく清潔な境内は、墓地の雰囲気とは似ても似つかない。
    気づかなかったが、本堂も山門も修繕をされて間がないようだ。
    紫色の小さな物が光った。

    「えっ、なに、これ?」
    山門の扉の正面に、光沢のある茄子が張り付いている。
    陶器だろうか。
    正面から、横から、あるいは少し離れてと、私は茄子から目が離せない。
    「ああ、そうか。この辺りは水茄子の本場か」、と首を傾げながらも納得をしようとした。

    そこへ墓参の女性がやって来て、
    「1富士、2鷹、3茄子、ですねん」と、親しく声をかけてくれた。
    門の脇には富士山。屋根の上には2羽の鷹。
    「こんなん、珍しいでっしゃろ」。中年の女性はカラカラと笑った。

    頷きながら私は「山門も女性も、ラテン系だな。さすが泉州」と、納得したのだった。
    それにしても目出度い山門である。
    正月の初夢を一足先に見た感じである。
    
    

              2019.10.21