川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                     九品寺



    今年の桜は九品寺の桜と決めていた。

    葛城山麓に建つ九品寺は、行基が開基した寺である。境内や裏山に多くの石仏があることで
    知られ、「千体石仏」と呼ばれている。南北朝時代にこの地を支配していた御所城主・
    楢原氏が南朝側に付き北朝側と戦った際、地元の人たちが味方の身代わりとして奉納した
    ものだ。身代わり石仏とも言われる所以だ。現在では1,600体〜1,700体にもなるそうだ。

    境内の「観音十徳園」に枝垂れ桜の大木がある。
    1月の寒空の下に裸木は寒々しかったが、咲けばいかばかりかと思わせる風格と気品が
    あった。
    「花の頃には是非、訪ねよう!」と、決めたのだ。
    3月の末、心躍らせて九品寺への緩やかな坂を歩いた。
    小ぶりだが端正な山門は、桃色の雲に包まれているようだ。ソメイヨシノが満開だ。
    門の左右には「九品蓮華界」と「勝過三界道」の石碑が建っている。
    たしか三界とは欲界・色界・無色界のこと、生死流転の世界。門を入れば浄土の世界だという
    意味だろうか?私は神妙に門をくぐった。


    枝垂れ桜は盛りを過ぎていた。
    桜はそうやすやすと最高に美しい時を見せてはくれない。気難しいのだ。
    艶やかな清楚な絢爛豪華な妖しげな寂し気な、そんな桜をたったの一度で見ようなんて
    欲が深い、とでも言っていそうだ。
    そうだね、何度か足を運ばなきゃね。来年の楽しみが増えたと思うことにした。
    
    九品寺の九品とはサンスクリット語だとか。
    意味は上品・中品・下品と、人間の品格をあらわしていて、上品の中にも上中下があり、
    中品にも下品にも、それぞれ上中下があるそうだ。全部で9つの品があるので九品と名づけ
    られている。
    ふと私はどの品だろうかと思ったが、突き詰めるのをやめた。おお、怖い。
    花も草も虫も、きっと上品の上だろうな……。

    とうぶん葛城山麓通いは続きそうだ。




                  2021.4.1