川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
ホーム  エッセー  旅  たわごと  出版紹介 

 


                      コリアンタウン



     電車が鶴橋駅に着くと、ホームいっぱいに美味しい匂いが流れてくる。
     私は月に2度、仕事の関係で奈良に出る。
     帰り道、近鉄電車を降りてJRに乗り換えるとき、いつも、このまま改札を出たいという衝動にかられる。
     疲れた体に、焼肉と冷たいビール。
     私はそんな思いを振り切るように、早足でJRのホームに急ぐ。
     美味しい匂いはいっそう濃厚になり、頭がクラクラとする。
     私を誘惑する匂いは、鶴橋国際マーケットから火山の噴火のように沸きあがってくる。

     というわけで、今回は友人と大阪の中のコリアンタウンを食べ歩く。
     
     マーケットの通路は、駅の下から迷路のように、あるいは蜘蛛の巣のように四方八方に伸びる。
     通路の両側には狭い店が押し合うように、並んでいる。
     チヂミやキムチ、魚屋、韓国の乾物屋、八百屋、靴屋。そして豚足やチラガー・ミミガー……。
     ここに無いものは、ないんだろうなあ。
     私は迷子にならないように、キョロキョロと友人の後を歩く。
     チヂミに手が伸びかけたが、コリアンタウンまで我慢する事にした。

     どれほど歩いただろうか、横浜や神戸の中華街のような、色鮮やかな「御幸通中央門」や
     「百済門」が私達を迎えてくれた。
     韓国語が飛び交い、店先には目も醒めるようなチマチョゴリ、まさにリトル韓国だ。
     韓国巻き寿司屋さんの前には行列が出来ている。
     丸かじりしながら歩こうかと思ったが、お腹の虫をなだめた。
     
     何を食べようかと思案している私の前に、ビーズがいっぱい付いたキラキラバッグが、
     「ねえ〜」と私に微笑んだ。
     気がついたら私はお金を支払っていた。友人も支払っていた。
     もちろんその後、辛いキムチや焼肉、ビールを飲んだことは言うまでもない。

     鶴橋は期待通り、食べ物とショッピングの街であった。
     
     
    

       

                                                            2010.1.20