川上恵(沙羅けい)の芸術村
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            こふん列車



     百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産登録を記念して、近鉄電車と南海電車が
     「こふん列車」を走らせている。7月28日が初発である。
     なんと知人は、その初発に乗ったという。乗り鉄もどきの私は羨ましくて仕方がない。
     聞くところによると、ダイヤは決まっておらず、当日か前日でないと分からないそうだ。
     なんとまあ、不便な列車だこと。そんなだと人気が出ないぞと、内心文句を言いながらも
     機会を待った。
 
     初発から遅れる事、8日。ようやく今日、待望のこふん列車にのる。
     今日も大阪は35度越えだ。
     だがめげずに、近鉄・土師ノ里駅、13時20分発にのる。
     「1番線に河内長野行きが到着します」。ホームにアナウンスの声が流れる。
     いよいよだ。
     緑やブルーで古墳をイメージしたイラストのラッピングがなされ、ようこそ古市古墳群へ!
     と書かれた車両が、私の前に止まった。ラッキー!
     おや?
     つり革を握った2人の埴輪が窓から覗いている。
     いそいそと私は乗り込んだ。終点の河内長野駅まで乗るつもりだ。

     埴輪のつり革、車内のドアや床には車体と同じ装飾がなされ、連結の辺りには埴輪が
     置かれている。私はキョロキョロと子供のように、あちこちを見回した。
     乗客は結構多い。なのに、誰もがつり革や内装に無関心だ。
     嬉しそうに写真を撮っているのは、私1人だ。
     だんだん私は寂しくなってきた。
     「なんで誰も驚かへんの?」「なんで誰も、これって何って、声を出さへんの」
     「なんで、誰も……」
     中高生や主婦がいっぱい乗ってるのに。
 
     だがどこかで、その無関心さに納得している私がいる。
     「中途半端やなあ」
     鹿児島の「たまて箱」や和歌山電鐵の「たま電車」が脳裏をよぎった。
     
     頭上で、一列に並んだ無邪気な顔をした埴輪たちが、私を見下ろしている。
     
     窓の外は真っ青な空と白い雲、そして深緑の山並み、水田。
     家から25分ほどなのに、田園風景が広がる。
     こふん列車は11月30日までの期限付きラッピングカーである。
     
     


                     2019.8.5