川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                  神のおわす地



    コロナウイルスの蔓延で家に籠っている日が多いが、あまりに天気のいい日には外の
    空気が吸いたくなる。
    何とはなしの気味の悪さに、気分が落ち込んでしまうのだ。
    急に気分転換をしたくなった。

    近場に、気分転換に最適な場所が数カ所ある。
    それは山の霊気が感じられる所だったり、清流の傍であったり、滝のしぶきがかかる所
    だったりする。
    間違っても繁華街や映画や食事ではない。

    今回は山の霊気と、清らかな水の流れに浸りたくなった。
    「神々が集う、天孫降臨の地」、とされる高天原である。
    自宅から車で1時間ほどである。

    天孫降臨の地として宮崎県の高千穂が知られるが、奈良県御所市大字高天原もその地だとの
    伝承がある。
    高天原に高皇産霊神(たかみむすびのかみ)を祀る高天彦神社がある。
    天照大神の子の天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)に、本社の祭神の娘が嫁ぎ、御子の
    瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が高天原から降臨された、というのだ。

    老杉の茂る参道の奥に、神さびた社殿が背後の山に守られるように建っている。
    鳥居をくぐると、空気が一層透明で清澄なものに変わる。
    神々の存在、世界を感じさせる神秘的な雰囲気が漂っている。
    山にも木立にも社にも狛犬にも、境内の前を流れる清水にも神がおわす。

    「ああ、気持ちがいい!」。私は深呼吸を繰り返す。
    そして金剛山から流れ出る、手を切るような冷たい水に手を差し入れる。
    なんと清浄な地だろうと、鳥の声に耳をすます。
    出会う人は誰もいない。

    神社の周囲を歩いてみれば、早咲きの桜がさき、水車が回っている。
    鶯が梅に止まって遊んでいる。
    その梅の木の前に、
    「昔、若死にした小僧の非運をその師が嘆いていると、梅の木に鶯が来て、
    “初春のあした毎には来れども、あわでぞかえるもとのすみか”、と鳴いたことから、
    この名がつけられました」と、「鶯宿梅」の説明板があった。

    印象的な偶然に出会えたものだ。
    できすぎた話のようだが、本当である。
    やはりこの地は神のおわす地、天孫降臨の地であるらしい。

                         2020.3.6