川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                              隠れ寺



     最近、滋賀県づいている。
     どうも同じ所をたずねる癖があるらしい。

     今回は琵琶湖を見下ろせる、長等山だ。
     三橋節子没後40周年記念企画・「魂の出会いと別れ展」が三橋節子美術館で催されている
     故・三橋節子さんと夫の鈴木靖将氏の2人展である。
     琵琶湖の哀しくも美しい風景と、万葉の世界に、私は清浄なひと時を持つ。

     長等山麓は、緑に包まれて清々しい。
     目を洗うような楓が重なりあって、トンネルをつくっている。
     トンネルを登って行くと、なんと隠れ寺が、湖を見下ろしていた。
     「高観音・近松寺(ごんしょうじ)」である。その名が示すように、近松門左衛門ゆかりの寺だとか。

     近松寺は三井寺(園城寺)三別所のうちの1寺院である。
     ほかに「微妙寺」などという、なんとも心そそられる名称の寺院もこの辺りにあったらしいが、
     現在は、三井寺内に移されている。
     
     なぜ近松門左衛門が三井寺を訪ねたのかは謎だが、武門の出である門左衛門は、
     この寺で様々な書物を読み、経をあげ、朝な夕な美しく変化する琵琶湖を眺め、
     自分の将来を考えていたに違いない。

     近江といえば白洲正子さんの隠れ寺が有名だが、琵琶湖を見下ろす長等にも隠れ寺は存在した。
     この観音様は、三井寺で一番高い位置に祀られているとか。だから高観音。
     そう聞けば、有り難さはひとしおである。