川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                              街道をゆく



     街道や古道が好きだ。
     そこは、はるか遠い昔の人々の気配がする。耳を澄ませば、草履の音・ざわめき・
     馬のいななきが、どこからか 聞こえてくる気がする。
     なにより、鄙びた美しさがある。

     というわけで、今回は中仙道69宿のうち、60番目の「柏原(かしわばら)宿」
     を訪ねた。 
     この宿は本陣・脇本陣をもつ大きな宿場だ。
     柏原から京都方向に2つ目の宿場は、
     「両の目蓋をぴったり合わしゃ、優しい笑顔が浮かんでくらあ。おっかさーん」
     「忠太郎〜」
     でおなじみの、番場宿である。
     醒ヶ井からこの辺りにかけては、当時がよく残っていて街道の趣を堪能できる。
   
     伊吹山山麓にある柏原は「もぐさ」で有名だ。
     伊吹もぐさ亀屋左京商店は、江戸初期の創業だ。
     単一の商品を扱う商家としては、日本で一番古い家かも知れないと、司馬遼太郎の
     お墨付きだ。
     番頭はかの有名な「福助」である。その耳の大きいこと大きいこと。
     紋付・裃をつけ、薄暗い店内に長い年月、座りっぱなしの福助に私は「ごくろうさんやね」
     と、ねぎらった。
     謹厳実直そうなそのたたずまいに、見飽きることがなかった.
     
     伊吹おろしが街道を走ってゆく。
     私は「やいと(お灸)うどん」を食べた。
     もぐさにみたてた「とろろ昆布」に、紅しょうがの赤い火が灯っている。
     
     いまも中仙道は裏街道と呼ばれるのだろうか……。