川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                     加太の戦争遺跡


   
   木漏れ日の中、レンガ敷きの小道を上っていく。
   頭上をおおう樹々の間から光の丸い球が落ちてきて、色あせたレンガの上を転がっている。 
   冴えた鳥の鳴き声が、遠く近くと、耳を楽しませてくれる。

   レンガ敷きの小道は続く。
   やがて道は左右に分かれ、分岐点の辺りに、見落としそうな狭い階段が暗い口を開いている。
   覗き込んでみる。
   レンガ積みの部屋が見える。湿ったような薄気味の悪い空間だ。
   気味が悪くて階段を下りるのを躊躇したが、ここまで来て降りない手はないでしょうと、枯葉の
   積もった階段を進んだ。

   丸いアーチ型の、外壁も内部も整然とレンガ積みにされた部屋が現れた。
   弾薬庫だ。
   懐中電灯を照らし、おそるおそる中に入ってみる。内部は広い。
   ひんやりとした空気が横たわっている。
   3、4部屋ある弾薬庫は、奥でつながっているらしい。
   ひんしゅくを買うかもしれないが、年月を経た美しい建造物だ。レンガの退色具合も趣がある。

   シーンという音が聞こえてきそうなほどの静寂。
   じっとしていると誰かに、後ろから肩をたたかれそうだ。、
   未練を残しつつ地下を出た。
   開けた円形の場所の先にトンネルが見える。その先にもトンネルが。

   広場は砲台跡らしい。
   ここ深山第一砲台は、明治25年に着工され、昭和20年の終戦時まで使用されていたそうだ。
   大阪湾に進入する軍艦を迎え撃つために、6門編成で置かれていたとか。
   時が止まったような不思議な空間だ。
   先ほどの鳥はどこへいったのだろう。

   そろそろ明るい場所に出たくなり、防護壁の階段を上った。

   「わあっ!」
   一挙に広がる真っ青な空と海。陰と陽、この対比の妙!
   眼下には濃い緑色をした友ヶ島が、どっしりと横たわっている。
   島の質感がたまらない。
   この島が無人島だとは信じがたい。昔、泊ったことがあるのに……。

   両手を広げて、キラキラ輝く春の空気を胸いっぱい吸い込んだ。
   友ヶ島の後方には淡路島がかすんでいる。のどかだ。
   「平和やねえ」、年長の友人が言った。
   

   戦争遺跡を訪ねたあとは、休暇村紀州加太での食事がお勧めだ。
   紀淡海峡を眺めながら、鯛や鱧、クエにシラス……。
   テラスからの眺めは、飽きることはない。
   夕焼けまで眺めていたいなあ。海も空も盛大に燃えるのだろう。
      



   
                                   2018.5.12