川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                   橋いろいろ




     子供の頃から大和川は身近にあった。現在もである。
     ふと大和川には幾つの橋が架かっているのか、気になった。
     気になったら即知りたいのが、私の難儀な点である。
     まずは源流地点をつきとめたいと、さっそく車の助手席に乗り込んだ。
     こういう場合、相棒の存在はありがたい。
     
     大和川は全長68キロ、奈良県桜井市の北東あたりの貝ヶ平山などの山々を源流とする。
     水源の最高は貝ヶ平山の822Mだ。
     大河の一滴は佐保川・秋篠川・竜田川……と奈良県を流れ、また石川・飛鳥川などの支流は
     大阪を流れ、合流し、大阪湾へと流れ込む。河口は工業地帯である。

     まず上流の初瀬川を遡る事にした。
     長谷寺を榛原方向に車を走らせ、しばらくすると、鳥見山と貝ヶ平山が見えてきた。
     あの山々が大和川の始まりだと思うと、すこし感慨深いものがある。

     しばらくすると雪がちらついてきた。
     やがて景色が見えないくらいの吹雪となって、目指す山々は白く霞んだ。
     やはり山間部だ。


     大和川にかかる橋梁は、国土省直轄のものだけで50もあるそうだ。
     もっとも電車の鉄橋や自動車道の橋梁を含むが、実際はもっともっと多いだろう。
     そんな中で気になる3橋がある。
     吊り橋の川端橋、沈下橋の大城橋、そして子供の頃の思い出の橋、高野大橋。

     川端橋は大阪府柏原市国分に架かる、長さ88M・幅1Mの吊り橋である。
     明治の頃までは渡し舟で対岸に渡っていたらしい。
     私は高所恐怖症である。細い吊り橋などもっての他だが、一か八かの挑戦をした。
     最初の1歩がなかなか踏み出せない。やっと橋の中ほどまで来たと思ったら、
     後から自転車に乗った主婦が、すいすいと私を追い越してゆく。
     橋が横揺れに揺れ、私はしゃがみこむ。「やめてよ、もう」

     大城橋は奈良県北葛城郡河合町と、奈良県生駒郡斑鳩町の間に流れる大和川唯一の
     沈下橋だ。     
     長さは60M・幅2M・水面からの高さは1Mである。
     橋の下を美しいとは言い難い大和川が流れている。
     車がスピードを落とすことなく、次から次と沈下橋を渡るのには驚いた。
     橋の所々に車よけの突起のようなものが作られている。
     私は車が来ないのを確かめて、一目散に大城橋を渡った。
     心臓がドキドキと音を立てている。

     だが川辺の光景のなんとおおらかで、生活と直結した懐かしさの漂っていることか。   
     しばらくは橋の魔力に取り付かれるに違いない。
     高野大橋については、いずれその思い出を話すこともあるだろう。