川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                普門寺の石畳



    所用があって高槻市の摂津富田に足を運んだ。
    京都にはよく出かけるのに、南河内に住む者にとって北摂はなじみが薄い。
    町は昨年の台風の痕跡があちこちに残っていて、建て替えや屋根の修理をしている家が
    多く、心が痛んだ。

    所用のあと、町を歩いた。今回は歴史好きの友人と一緒だ。
    摂津富田は寺内町と酒造りの街である。風情のある佇まいで、歴史の深さを感じさせる。
    少し奥まったところに、清々しい小ぶりな寺があった。石碑には「普門寺」とある。
    予約がないと拝観できないそうだが、運よく住職がおられ門を開けてくださった。

    「わあっ、綺麗!」と声が出た。
    思いもよらないところで、盛りの花に出会えた時の嬉しさはひとしおだ。
    貧乏性のせいか、おまけを貰った気分になる。
    萩が満開だった。真っ青な空に赤萩と白萩。そっと手に触れてみる。さわさわと花が揺れた。
    ふと足元を見ると、なんとも趣のある石畳が。
    菱形・四角・菱形・四角……と石が並んでいる。お洒落でモダンだ。
    隠元禅師の作庭だとか。その感覚に急に隠元禅師が身近に感じられた。
    禅寺は建物はもちろん小さな石に至るまで、静謐である。
    禅寺に秋の陽が差して、樹木の影が光の玉の模様を作っていた。
     
    堪能するまで枯山水庭を拝見したあと、酒蔵通りを歩いた。
    台風の被害に遭われたのだろう、酒蔵の1つは工事中だった。
    だが、杉玉を吊るした向かいの家屋の軒下では、厄除けの柊と鰯の頭が家を守っていた。
    「けなげだなあ、鰯。柊も1枚の葉も落ちずに、立派やね」
    「いまどき、こんなにきちんと魔よけの柊鰯を飾るお宅って珍しいよね。
    風習を守るって美しい」
    口々に勝手なことを言いながら、私たちは鰯の顔を凝視した。
    鰯は大きな口を開けている。すべての邪気を飲み込まんとばかりに。
    雨風にも暑さにも負けず、半年以上もしっかりと家を守ってきた、逞しい顔である。
    柊の葉先の棘も鋭さを増しているようだ。


    私達は富田の町が好きになりそうである。いや、好きになった。
    
    

    
                 2019.9.17