川上恵(沙羅けい)の芸術村
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  琵琶湖を一周




     大津まで行く用事があったので、その夜は大津どまりにして、翌日は琵琶湖を一周してみようと
     思いついた。
     冬の琵琶湖は夏のそれとは、また違う趣がある。

     大津京駅から湖西線に乗る。
     日曜日だというのに乗客は少ない。私は湖の見える窓側に席をとる。
     琵琶湖が窓いっぱいに広がって、気持が伸びやかになってゆく。。
     心のわだかまりが溶けてゆく。

     昨日私は、三橋節子さんの「湖の伝説・余呉の天女」や「花折峠」等の絵画を見て、無性に湖北を
     訪ねたくなったのだった。

     「オフェリア」というミレーの絵画がある。私の大好きな絵だ。
     花を手にドレスの裳裾をひきながら、オフェリアが川に流れてゆく。
     岸辺や水中には、白い小花が彼女を痛むように、清らかに咲いている。
     「花折峠」の少女も花に囲まれて小川を流れていた。
     赤い着物を着て。微かにほほえみながら。
     少女の流れ着く先は浄土……。
 
     奥琵琶湖には冬が似合う。
     比叡山坂本・志賀・比良・近江舞子・安曇川……。
     列車が進むにつれ、灰色の空は重く垂れ込め、湖面の色も歩調を合わせるかのように
     鉛色になってゆく。
     比良山は雪を被っている。私はずっと窓からの景色を眺めている。

     雪が降ってきてやがて近江塩津、ここで琵琶湖線に乗り換える。
     乗り換えずに行けば敦賀に出る。

     余呉・木ノ本・高月・長浜・米原……大津。
     列車が余呉を過ぎた頃、はるか向うの田圃に、灰色の空から細い一条の光の帯が
     柔らかく降り注いだ。
     天女の羽衣が地上に舞い降りたようだ。
     伊吹山が白く聳えている。
     あの山の方向に義母だった人が住んでいた……。
     ふっと懐かしさが甦った。

     米原のプラットホームで牛肉弁当を買い、ビールで一人旅に乾杯した。
     
     

       
     

                                                          2011・1・3