川上恵(沙羅けい)の芸術村
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           天に昇った



   ホテイアオイの花言葉を書いていて、ふとハマナスを思い出した。
   去年の初夏、天橋立でピンクのハマナスに出会った。
   砂浜に這うように咲いている花に、しゃがみこんで見とれた。
   健気に可憐だった。
   花言葉を調べると、これがなんとも詩的で素敵。
   「悲しくそして美しく」。 由来はあえて言わない。

   何度か行っている場所なのに、見落としたり、し残したりしていることがある。
   私にとってその1つは、天橋立の松並木の端から端までを歩くことだった。
   神代の昔、神の通い路が海に落ち、龍神が一夜にして土を盛り上げて造り上げたという天橋立。
   逆さまに見ると、龍が空に昇っているように見える。

   生れて初めて行った旅行先は白浜。次は赤目48滝、3番目が天橋立だった。
   小学5年生だった私は、ここで溺れかけたのだった。
   どんどんどんどん沖へ流され、死ぬかと思った。
   以来、天橋立は鬼門となっていたのだが、40を過ぎるころから解禁となった。

   念願が叶う時が来た。
   天橋立海水浴場辺りから対岸の宮津市まで、3、6キロを歩く。
   8000本の松が植えられているという。
   途中には天橋立神社や磯清水、蕪村や与謝野寛・晶子の碑があったりと退屈することがない。
   ときどき松並木をそれて海を眺める。
   この海で溺れそうになったのだ……。なのに、今では過去の出来事の1つになっている。
   砂浜が綺麗だ。
   心がどこまでも広がって、小さなことで悩んでいる自分が馬鹿らしく思える。
   そこでハマナスに出会ったのだ。

   1時間以上をかけて龍の先にたどり着いた。やり遂げた感がある。

   まだまだし残したことがある。
   心残りなことがある。
   ひとつひとつ、それらを潰していきたいな。
   したいことをいっぱい箇条書きにしなくては。



   
                              2018.9.5